仕事を終えて勝鬨橋に差しかかると、
潮風とともに一日の疲れがふっと抜けていく。
橋の上は、朝とはまるで別の顔をしていた。
朝は戦場へ向かう通路だったのに、帰りはどこか“解放の道”になる。
晴海通りの左側には、大きな酒屋が歩道にせり出すように立ち飲みスペースを構えている。
夕暮れどきになると、作業服のままの男たちがコップ酒を手に、
今日の魚河岸のセリの話やら冷凍マグロ船の入札の愚痴なんかを交わしている。
その奥の細い路地には、小料理屋やスナックが肩を寄せ合うように並び、
暖簾の隙間から漏れる灯りが、働き終えた身体をそっと誘ってくる。
晴海通りの右側には小さな公園があり、
その隣にはバラック建ての煮込み屋と寿司屋があった。
寿司屋の名前は――確か「おたべ寿司」。
どれも今の高層ビル群からは想像もつかないほど、
のどかで、ゆるやかで、
“昭和の東京の余白”がまだ残っていた。
勝鬨橋を渡るたびに、
「今日もなんとかやり切ったな」
そんな気持ちが胸の奥にじんわり広がっていく。
街の灯りが、働く若者をそっと包み込んでくれるような時代だった。
あの頃の勝鬨橋は、働く若者の背中をそっと押してくれるような場所だった。
今の風景を眺めるたびに、あの夕暮れの匂いを探してしまう。
