バイトの帰り道、スーパーの鮮魚売り場でマグロのカマを見つけた。
懐かしさが胸に立ち上がり、そのまま買い物かごへ。
「焼いて晩酌のおつまみにしようよ」と家内に言うと、
最初はグリルの後片付けが大変だからと渋っていた。
でも、冷蔵庫にロゼワインがあったのを思い出したらしく、
「じゃあ焼こうか」と手を動かしてくれた。

カマ下の大トロはもちろん、
血合いのほろほろしたところも実にうまい。
ロゼを二杯ほど飲んだあと、家内にワインを任せて、
自分は日本酒へと切り替えた。
微睡んでいると、
だんだんと身体が“築地の魚河岸小僧”に戻っていく。
土曜日は水揚げや検品がなければ、
セリ場の仕事が片付くと昼で上がれた。
その足で知り合いのマグロ仲買の大番頭のところへ行き、
「今日は二千円分ちょうだい」と言って
冷凍大鉢マグロのブロックを分けてもらう。
仲卸の店舗には、
巨木を切るような解体機が据えられていて、
その周りには切り落とされたカマがいくつも転がっていた。
まとめて業者が引き取りに来るから、
誰も気に留めない。
だから、いくつか一緒にもらって帰った。
家に戻って身を外し、
残った部分を焼いて晩酌のつまみにする。
あの頃は、それが当たり前だった。
ウトウトしてたら、
「どうぞ、おカマいなく」
マグロのカマさんがそう囁いた気がした。
