昼休みの腕立て伏せ 

高校は男子だけの全寮制だった。

大食堂で全学年が三度の食事を一緒にとる光景は、

今思い返しても圧巻だ。

昼休みも全員で一斉に食べ、

先生たちも同じテーブルに並ぶ。

食事が終わると、校舎の屋上や校庭へ、

三々五々散っていく。

中庭でソフトボールをする集団。

屋上で昼寝をする集団。

ラグビー部はラインアウトの練習。

それぞれが、それぞれの場所で時間を過ごしていた。

私は剣道部だった。

一学年上のキャプテンは、昼休みになると一年生を屋上に集め、

腕立て伏せと腹筋を黙々とやらせていた。

キャプテンが片手腕立てを軽々とこなす姿を見て、

「自分も絶対できるようになりたい」

と純粋に思い、毎日熱心に筋トレを続けていた。

その姿を見ていた、剣道部ではない一年生たちが、

「食後に運動しても消化に悪いし、効果ないだろ」

と、遠回しに批判してくることがよくあった。

真剣に何かに取り組んでいると、

必ず横から茶々を入れてくる人がいる。

変わったことをしようとすると、

引きずり戻そうとする空気がある。

あの感じが、どうにも苦手だった。

でも、どうすることもできなかった。

ただ、黙って腕立てを続けるしかなかった。

今思えば、

世の中には思い通りにならないことの方が多いこと、

“普通に振る舞う”というのが実は一番難しいこと、

そういうことを最初に身につけたのが、

あの全寮制の高校だったのだと思う。

あの頃の息苦しさも、

今では少しだけ、ありがたく感じている。

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