押し入れを片付けていたら、
古いノートがひょいと顔を出した。
1997年のインクの色は、
いまの光の下でも妙に生々しくて、
ページをめくるたびに、
あの頃の身体の匂いがふっと立ち上がる。
ああ、これはもう、
白パンツ無頼控えの“0話”になるしかない。
そんな確信が、
台所の椅子に腰を下ろした瞬間に降りてきた。
ノートの中の自分は、
不器用で、熱くて、
いま読むとちょっと笑ってしまうほど真っ直ぐだ。
でも、その真っ直ぐさが、
いまの自分にはやけに眩しい。
夕方のバイトまでの時間、
壁一面の本棚を整理していた。
バブル絶頂期の日記も、
お気に入りだった日刊メルマガの要約も、
ぜんぶ残っている。
どれを開いても、
当時の自分がムダに燃やしていた熱が
紙の向こうからじんわり伝わってくる。
創作に大半の時間を使えるようになった“今”だからこそ、
こいつらがギンギラギンに輝きだしたのだろう。
残るべきして残ったものたち。
そんな気がしてならない。
書斎がないことを、
このところ少し悔やんでいた。
けれど、日中のリビングも和室も、
誰もいなくて静かで、
風がよく通る。
ミニマムニストも悪くないが、
どうやら私は、
この雑多な和室の本棚と、
リビングのテーブルの周りが好きらしい。
ここが、いまの私の
<砦>
なのだ。
0話が生まれたのも、
この砦があったからだろう。
徘徊して、片づけて、
ふと立ち止まった場所に、
物語の入口が落ちていた。
今日もまた、
そんな一日だった。
